今朝の梅雨寒が嘘みたいに晴れてきた。
着る物を誤ったねなんて笑って、俺と朝也は郊外にある地元野菜の美味しいピッツェリアから駐車場へ歩いていたんだけど、4度無視した電話がまた鳴り出して、しつこいったらない。
仕方なく出て、1秒で後悔。
Ugh!と天を仰いだ俺を笑った朝也は、少し離れた所で明後日を向いていてくれる。
俺、環俊平は『Shun』の名で少しばかり個展を開けるようになったNY仕込みの新進画家だ。
今日はドライブがてら画材の買い出しをして、夜は8室しかない隠れ家のようなオーベルジュに一泊する。特別、観光したい所もないけれど、日本の梅雨の蒸し暑さに寝不足気味の俺を見て、朝也が『ベッドを変えるか』と連れ出したんだ。もっとも俺は、ゆっくり寝られるとは思っていないけれど……。
電話の相手は同業者でBedford Ave.ベッドフォード・アベニューにある新装カフェの内壁画を一緒に描いたことがある。
才のある人だし、俺の腕を見込んで仕事に誘ってくれたのは有難かったけれど、日を追うごとに雲行きが怪しくなって、興味深い芸術談議も最後には夜の誘いに終着する、そんな男だった。
ワライカワセミのようなけたたましい声で『久しぶり』だの『どこにいるの?』だの気味悪いほど陽気に捲し立てるのは、黙ってニューヨークを離れた俺を責める訳ではないと機嫌をとっているつもりか……?いつも、そうだった。俺が何度、拒絶しても笑っている。
『年下だからって、所有物扱いされるのは反吐が出るんだけど』
そんな言い方をした時も『しょうがないな』って、まるで、振り向かない俺の方が我儘を言ってるみたいな調子で全然懲りないんだ。こういう手合いは彼だけじゃないけど、どうして俺なんだろう?って、いつも思っている……。

「Don’t call me anymore.」

話の切れ間がないのを二言三言で遮って、もう電話して来ないでと俺は一方的に電話を切った。

「どこで、この番号を知ったんだろうね?」

お待たせと振り向いても、朝也は誰からとは問わない。
小難しい顔つきで一瞬、俺を注意深く見たのは、会話の内容を薄々察しているのだろう……。だったら、少しぐらい嫉妬してくれてもいいのに、このクールな恋人は何も言わずに歩き出すんだ。

「俺に夢中な男だよ。参ったな、まだ諦めてないなんて」

訊かれもしないのに言ってみる。

「そうか」
「それだけ?」
「お前は断った。俺はそれならいい。……が、」
「言い方がキツいって言いたいんだろう?何度も言われてる」
「……」

口の端を緩めた朝也は笑ったようだ。口汚いスラングまで通じてしまうなら、朝也の前では英語で話しても気が抜けないと忍び笑う。内緒事はもちろん、ノリで交わす睦言も今日みたいなお行儀の悪いサヨナラも聞かせたくはない……。

「お前は優秀すぎるね」
「俊平は顔に出るからな」
「うっそ……、鏡を見て話そうかな?」

長身を見上げて笑った俺につられたか、朝也の笑顔が青空に眩しくて、失いたくねぇなって思った。
たまに、時々、不意にそう思うんだ。朝也を失いたくない、フられたくないって。
頭の中じゃ、もう何度もフられていて、朝也の『隣』から脱落する自分を想像おもっては、寂しくなってんじゃねぇよと嗤っている。困ったことに幸せな時ほど、この念に駆られるんだ。朝也が俺に笑い掛けるたび心臓がズキッとして、俺は胸の内で朝也に問いかける。


どうして、お前は俺といるの……?

「俊平?」
頭上から降って来る声は、ひどく甘い。

「ボッーとして、どうした」
「ううん、朝也は……わかっているのかなぁ?と思って」
「何を?」
「俺が顔に出やすいってさ。それ、朝也が始終、俺の顔を見ているってことじゃないの?」
「ぁ?」
「だから、気付けるんじゃない?」

どーだよ?と調子づいた俺に朝也は噴き出して、
「そうかもしれない」
と、大真面目に頷いた。こんな些細な遣り取りすら、俺の心は弾む。
肩を並べて朝也の手にそっと甲を触れると、応えるように絡められた指の一本を掌にギュッと掴んだ。もっとも、塀の向こうから子供が飛びだしてきて、すぐに離してしまったけれど……。

「俺ね……人からの好きが良く解んなかった。皆、好きとか愛してるとか言って、俺のどこが好きなの?って訊くと大抵、黙ってしまうの。どうせ、カラダ目当てだろ?ってシラけてた」
「……、……?」
「あぁ、お前のことじゃないよ?」

目と目が合って、けれど、朝也は息を呑むついでに言葉も呑み込んでしまったみたい。
この寡黙な男は瞬時に自分の発する言葉の要不要をジャッジして、本当に必要な時に最低限の言葉しか伝えて来ないところがある。たまには無駄な言葉も吐いてくれていいんだよって思うけれど、朝也がそういうヤツだから俺は信頼しているんだ。
遠く、山の稜線に白い雲が掛かるのを真昼の蒸し暑さを孕んだ風が忙しく追い立てていく。
草の香のする駐車場に車は数えるほどしかなくて、片隅に自動販売機とベンチを見つけると、俺たちは暗黙の了解とばかりスモークブレイクをとった。むしろ、朝也の一歩の方が積極的に思えたから、俺の話を最後まで聞くつもりがあるらしい。
「……でもさ、」
と言いかけて、朝也から火を貰った。

「カラダ目当てから始まる恋愛もあるのかもって、時折、思うようになってさ。俺の何が好きって必死に言葉並べるヤツもいるけど、それ、どこの神様よ?ってくらい俺じゃないしね。そんな不確かなものなら『カラダが好き』も『何となく好き』もスキの理由には成るのかなぁ?って思ってさ」
「ちょ、俊平!」
「あー、だからって、間口広げて安売りするわけじゃないから」
「……そうか」
「今の慌てよう、写真撮っとけば良かった。いい男は慌てぶりもクールだね。まぁ、俺は朝也のどこが好き?って訊かれたら、三日三晩、寝かさず耳元で話してあげられるけど……聞く?」
「訊かね」

ムスッと顔を背けた朝也の表情に懐かしい色を見て、俺はその項に手を触れた。ビクリとした朝也が怪訝な顔つきで俺を振り返る。高校生の頃、俺のとばっちりで一緒に廊下を走って先生に叱られた時の、あの不本意を全面に貼りつけたフテた顔だ。そして、そこからの……、

「ほら、お前は、このタイミングで笑うんだよな」
「ん?」
「いや、何でもない。……うん、まぁ、だからね。さっきの話だけど、俺は誰に好きと言われても一過性のものだよって笑い続けてきたんだ。それでも本気になられたら腹括るしかないよね。そういう時はさ、受け入れるも拒むも真剣に向き合わなきゃダメだと思うんだよ」
「……ぁ?あぁ……」
「それが、俺の拒絶が容赦ない理由。ぬるいのダメなんだ。つまりね、朝也……」
「……」
「俺をフる時はどうすればいいか、わかった?」

…………………………。


どうして、そんなことを言ってしまったのか。
例の弱気の虫に言わされたんだ。隣に置くのに俺は相応しくないと思ったら、その時は容赦なく切ってくれみたいな……そんないじけた気持ちが妙な具合に口をついて出てしまった。
シマッタと唇を噛んで、大きく肩で息をついて……、

「悪い。つまらないことを言った」

根暗を払拭するように声を上げると、俺は煙草の火を消して居たたまれず、先にベンチを立った。
まだ若い錆の匂いが微かに鼻先を掠め、それはそのまま未熟な自分を思わせて溜息をつく。車へ歩き出した後ろで朝也の動く気配がして、路上に色濃く揺れる自分の影が一回り大きくなった。

「お前は面倒臭ぇな」

頬を打つ風がやわらかい。
どうせ面倒臭いよと苦笑わらって、俺はクラクラする陽射しに目を細め、歩調を速めた。
重なった影は付かず離れずついてきて、俺は背中いっぱい朝也を意識している。
不意に風が動いて、バシンと音が鳴る勢いで尻を叩かれた。痛いと文句を言う間もなく、かなりの重量で降ってきた腕に強く肩を抱かれ、びっくりした俺は口をパクパクさせるばかりだ。

「そんな日がくると思っているのか?」
「……な、」
「まだ、そんな日がくると思っているのか?」
「……来ないのか?」
「来ねぇだろ」

愚問と言わんばかりに薄らと笑う朝也の横顔が頬を熱くする。
やべぇ……、今夜の睡眠時間の確保なんて、どうでも良い気がしてきた。



「次、俺が走らせていい?」

車のキーを受け取った頃には風が次の雨を運んできて、首筋をじとりと汗が伝っていった。
この週末の雨を遣り過ごしたら梅雨も明ける。
もう、俺は朝也と過ごす夏のことしか頭になかった……。

                                                                                 
                                                                                         Fin.

                             

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「環、遅れてゴメン、待った?」
「うん、待った。待ちくたびれた」
「え?そんなに遅れたかな?」
「四室さんに早く会いたくて、一時間も前に来ちゃった」
「そういうの、恋人に言いなよ」
「あははは」
「何を飲んでいるの?」
「何ていうカクテルだったかな?さっき、うしろの男に口説かれて奢らせてくれってさ。柑橘系でサッパリしてるし美味しいよ?」
「知らない人だろう?気を付けなよ?」
「平気だよ、慣れてる。俺にとってこれは日常」
「ったく、キミってヤツは……。神月に知れたら、いい気はしないと思うけどね?」
「それで嫉妬の一つもしてくれるなら上々だよ」
「……。マスター、こちらにも同じものをください」

……………………………………………………

「で、何かあった?環が俺を呼び出すなんて珍しいね」
「朝也が俺に隠し事してる」
「神月が?」
「様子がおかしいんだよ。俺、今、挿絵の仕事に掛かりきりで、朝也が休日に何をしているのかも判らなくてさ。度々どこかに電話しているみたいだけど、急に出掛けたと思ったら機嫌よく帰ってきたり、しかつめらしい顔でタブレットやカタログと睨めっこしていて、ロクに口も訊いてない……」
「…………ぁ、……」
「何?何か知ってるの?」
「……いや、環が忙しいから気を利かせているだけなんじゃないのか?」
「うそだ。四室さん、何か隠してる」
「神月のことで環が知らなくて俺が知っているなんてこと、あると思う?」
「ない、と思うけど……」
「気になるなら直接、本人に訊いてみればいいじゃないか。環の性格だとそうすると思ったけど、神月の事となるとキミは臆病だね」
「だって!残高……」
「残高?」
「たぶん、銀行の残高照会の画面だと思う。見ているの……見た。やっぱ、俺が帰国して転がり込んだの負担になっているのかな?あのカタログ、俺の部屋探しだったりして……」
「追い出されると思って訊くのが怖くなった?」
「……ぅ、……」
「可愛いトコが有るんだね。大丈夫だよ、そんなんじゃないから」
「やっぱり、何か知っているんだね。女?」
「それ、本気で言ってる?」
「だって、住宅情報誌っぽかった。俺が近づいたら隠してさ。後で見てやろうと思ったら、どこかに片付けて分からなかった。それに……、帰宅した朝也から何度か花の香りがした」
「いい鼻してるね」
「切実なのに~」
「不貞腐れるなよ、可愛すぎるから」
「四室さんには言われたくない」
「それ、どういう……」
「くそっ!絶対、女と会ってる。今夜こそ仕事片付けてベッドに誘ってやる!」
「声、大きいし……。そのために急がれる絵というのもどうなの?」
「仕事は疎かにしない、魂削ってんだから……。俺、帰る」
「納得した?」
「ゼッタイ、ナニカシッテルシムロサンガ『ダイジョウブ』ッテイウカラ、シンジルコトニスルー」
「抑揚つけてよ。嫌味だなぁ」
「……残る?」
「うん、折角だから少し呑んで帰るよ」
「そ。じゃ、また……」

艶夜

「ずっと、環と暮らしていくための準備とは考えないのかねぇ……?」

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朝也の匂いを消したい……。
部屋一杯に油彩具を広げて朝から晩まで絵に没頭しても、後から後から雨上がりの果樹園のような香りが追いかけてきて俺は囚われる。何て甘美な不自由なんだ。呼吸困難に陥りそうだ。
俺は画家なのに、世界の全てが薄くれないのフィルターに遮られて真実ほんとうの彩を失くしてる。
「これじゃ、廃業デスガ?」
なっちゃいないね、と床に転がった。
7年ぶりの帰国も、朝也と過ごす時間は少ない。朝、目覚める頃には出勤していて、日付が変わっても戻ってこない。
夜中に目が覚めると朝也はリビングのソファで寝崩れていて、その疲れた瞼にそっとKissしても起こすのは忍びなくて踵を返す。俺とて色々と忙しいわけで、今夜こそと思っても待ちくたびれて眠ってしまう、そんな擦れ違いの日々が、もう幾日、過ぎただろうか……。

「俊平、目を開けろ!どうした、何があった、おい、俊平?」
朝也が騒いでいた。朝也じゃないみたいな大声で……。
俺は触れたら指先の小さな手垢すら気になりそうな真白で真四角の何もない大きな箱の中を、ぐる~んぐるん回転しながら浮遊していた。上下が激しく入れ替わり、
「止めて」
と発した声も、どうやら朝也には届いていないらしい。
「俊平!」
一際、大きな声に呼ばれて身体が何処かに着地した感触があった。
「救急車……」
慌てる声が聞こえて「呼ぶな」と叫んだつもりが金魚みたいにパクパクするばかりで声が出ない。
手足をバタつかせたつもりも身体は動かない。
あぁ、こんなこと前にもあったなと息をついたところで、一瞬のブラックアウトから徐々に光が射し込んできた。
「俊平?」
俺を覗き込む朝也の心配そうな顔が見える。着地したと思ったのは朝也の腕の中で、
「また、やってしまった……」
俺は、ぼんやりした頭で溜息まじりに小さく苦笑わらった。
「大丈夫か?お前、意識、飛んでいただろ……。何か悪い病気か?」
「平気、寝てただけ。おかえり」
首を左右に振って床に手をつくと、怠い半身を起こし後頭部を2度叩く。
「『おかえり』って。鍵開けたら真っ暗だし、電気を点けたら刺殺体みたいに転がってるし……」
「『刺殺体』は無いんじゃないの?」
「笑ってんな、バカ。何度呼んでも反応ねーし、暖房もつけないで。こんな寒い部屋でいつから寝ていたんだ?」
「朝也にしては饒舌」
「俊平!」
いつになく大きな怒声が頭上に降って来る。俯いた視線の先に朝也の拳が戦慄わななくのを見て、本気で怒っているのだと解った。あまり感情を表に出さない朝也だけど、ボルテージが上がると手が震えるのを俺は高校生の頃に何度か見た憶えがある。
「また、メシを食わなかったのか?」
ううん、と俺は首を横に振った。
「顔が赤い。熱でもあるんじゃないのか?」
やっぱり、ううん、と首を振る。
「本当に病気じゃないんだな?」
今度は首を縦に落とした。
ニューヨークで一人暮らしをしていた時にも何度となくやらかして、危うく911をコールされかねない騒ぎを起こした。どうにも、何かしら思念に囚われると寝食を忘れてしまう。
大丈夫。こんなことしょっちゅうだし……という言葉を咄嗟に呑み込んで掠め取ったkissは、そこだけチリリと熱く、仄かに煙草の香りがした。
「どうにも、誤魔化された気分だ」
と、呆れ顔の朝也に肩を抱かれ、もっと朝也の匂いに包まれたいと胸に頬を寄せる。
「疑り深いね。本当に病気だったら、お前の元に戻ってきやしないよ」
「そうか。……ところで、」
「んー?」
仕事疲れの艶を含んだ声に耳許をくすぐられて朝也をぼんやり見上げると、視線を逸らせた朝也が何ともバツが悪そうに呟く。
「お前、下ぐらい穿いたらどうだ……」

「……あ゛」

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人と人は相容れないと思うようにしてきた。
その方が解り合える事を前提に人と関わるより、Starting lineを上手く切れるように思っていたからね。
解り合えることを信じたら、俺は欲深いから期待して押しつけがましくなっちゃうんだ。
なぜ、届かない?なぜ、解らない?って相手を責めたくなる自分がいて、どんどん醜くなる気がした。
口にしなければ失わずに済むはずのものまで全部失くしてしまいそうで、俺は貝のように口を閉ざした。

虎センパイには、傷つくこと前提で逃げ道を作っているだけだと言われた。

『理屈を救命道具にしたところで、理想と現実の狭間で思考を持て余すだけ。もっと、直感で生きてみれば?』と。
『高校生の頃のオマエは本能剥き出しで怖いもの知らずに見えた。そのくせナイーヴで内省が過ぎるから、時々、自分を壊すことさえいとわねぇんじゃねーか?って心配になったけど、ホント、愛おしいくらいメチャクチャで目が離せなかったな』

それは、得たいものも失いたくないものも無い、人にすら無関心なガキだったからだ。
けれど今は、相容れないからこそ寄り添いたい。
歩み寄りって言うのかな?その一歩引いたところに、思いやりとか相手の想いを踏みにじらない心のゆとりみたいなものが生まれるんじゃないかと思うようになった。

今の俺は大切な人のそばにいるから……。

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「朝也、こっちこっち!お迎え、ご苦労」
「お前な……、」
「必要な画材を買い揃えていたら、持ち切れない事に気付いてさ。電話1本で車出してくれるなんて愛を感じるねぇ。あ、そっちの袋、頼める?」
「重……。何だ、これ?同じ缶ばかり」
「クイックベース、カンバスに塗る下地材だよ。同じじゃないよ?色が違うんだ」
「そうか」
「明日、休みでしょ?カンバス張るの手伝ってよ。ちょっと、大きいの張るからさ。あ、そっちのロールカンバスも運んで。中にタックスの入った袋があるから落とさないでね」
「タックス?」
「カンバスを張るのに使う釘。色々なサイズがあるから、そう、それそれ……」
「お前、大概、人使い荒いよな?」
「そのぶん今夜もサービスするからさ♪」
「いらん。寝かせろ……」
「……I want to sleep with you俺はしたい.」

「朝也と海を見るの久しぶりだね」
「他のヤツとはあるのか……?」
「え゛、そんな言い方するの珍しいね、嫉妬に聞こえるよ?」
「そんなんじゃねぇよ」
「残念」


「ねぇ、朝也。今日は一日、何してた?」
「何って仕事に決まってる」
「楽しんだ?」
「……お前、面白いことを言うな。楽しいって……」
「じゃ、辛かった?」
「そんなふうに考えたことは無い、いつも通りだ。お前は?」
「うん。この近くでアートメッセの打ち合せがあったの。担当の人、女性なんだ」
「へぇ……どんな感じだった、上手くやれそうか?」
「土偶みたいな人。40半ばってとこかなぁ?ハッキリものを言う人で俺は嫌いじゃないよ」
「土偶って……、他に言い方があるだろ?」
「え。朝也は土偶の美を否定するの?」
「お前、誉め言葉のつもりだったのか?」
「当然だよ。俺はグラマラスで良いって言ったんだ。ぽっちゃりした人でさ、胸がデカくて、ウエストは一応、くびれてて、尻がバーンみたいな。ボブパーマって言うの?髪もナチュラルで似合ってて、ちょっとオリエンタルな雰囲気の中々、美人」
「……」
「そう!字が綺麗なんだよ。呑み込みも早くて俺が作品のコンセプトを伝えたら効果的な展示方法とか一緒に考えてくれて、すっかり話し込んじゃってさ。期待してて!……ぁ、もちろん来てくれるよね?いい仕事、見せてやるから♪」
「随分、やる気満々だな」
「うん。すぐにも筆をとりたいぐらい」
「じゃ、今夜は早く寝て・・・・、明日はカンバス作りに付き合うか……」
「え?」

「ええっー……!」

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