先週の金曜日。会議室から吐き出されたところで、俊平から連絡が入った。
『虎先輩ん家にいる。帰りに車回せ。143』
何が『アイシテル』だ、便利扱いしやがってと口許が緩む。
これが全ての始まりだった……。

…………………………………………

Beau Talentボータロンで顔見知りのカメラマンがね、ハロウィンのイベント用にフォトジェニックな見栄えのする男を探しているって言うんだ。モデルを雇う金もないし、むしろ、素人臭さが欲しいんだって。だから、3人なら見繕ってもいいって言った」
「……は?」
Beau Talentは俊平が所属しているギャラリーだが、この話は、どうにも胡散臭い……。
「報酬は?」
「そうくると思った。朝也はリアリストだもんね」
「……」
そういう問題ではなく『3人』という事は先輩たちを巻き込む気満々という事だろう。俺一人なら未だしもタダ働きさせる気かと、悪びれるふうもない俊平に溜息をついた。この眼……ほだされそうな俺を見透かすように艶然と見上げてくるあざとさに口角が上がる。
「で……?」
「それがね、聞いてよ!彼のスタジオを無償で3日間、貸してもいいって言うんだ。個展が開ける。ねっ、いい話でしょ?虎先輩も四室さんも協力してくれるよね?」
困惑気味の艶夜さんは予想通りといったところだが、人に見られる事に何の気負いもない虎さんは好奇心旺盛な顔つきでニヤニヤと笑っている。
「それ、俊平の得にしかならねーじゃん」
「俺の得になるならいーじゃん!」
……話にならない。
そして、この環俊平という頭の螺子ネジが数本飛んだ新進画家は決まって大事な事を、一番、最後に告げるんだ。
「どんなコスプレにする?楽しみだね♡」

「「「はぁーーーー?」」」

……………………………………………………

「Boo!」
「おい、俊平?」
「Tomoya!Boo!To You,Too!Happy Halloween♫」
「お前、高校の頃はハロウィンなんて興味ないって顔してたくせに。服、裏返し……」
「いいんだよ。こうやって裏返しに着て、後ろ向きに歩くと魔女に会えるんだから」
「何だ、それ?」
「イングランドの古い言い伝え♪」
「成功率は?」
「Hmm……俺が朝也を袖にするくらい?」
「ゼロか」
「しょってるね、憎らしいやつ。……Wow Cute!朝也、俺、これにする♡」
「……、ドレス!?」
「ふふーん、絶対、似合うよ。朝也は執事ね。俺、一度で良いから、お前にかしずかれてみたかったんだ。ほら、着替えるの手伝ってよ。背中のファスナーを上げて♡」
まったく……楽しそうで何よりだ。
ハロウィン仕様に賑々しく飾られた写真館は思ったより広く、話が持ち上がってからの1週間、俊平はコンセプトを練り、通い詰めてセットを手掛けたようだ。この凡庸な人間には考えもつかないブッ飛んだ世界は、今、鏡の前で腰を捻って浮かれている男の頭の中でどう構築されて行ったのか、その才には舌を巻く。ピンクのフレアが一際大きく揺れて、くるりと俺に向いた瞬間、まんざらでもないと思ったことは黙っておこう……。
「お前に女装癖があったとはね……」
「朝也も着てみる?」
「恐ろしいことを言うな」
「似合ってる?」
「……それなりに」
衝立の向こうから、珍しく手を打って大笑いする艶夜さんが魔法使いの恰好で黄色い尻尾を追いかけてきた。逃げているのはトラネコの着ぐるみを着た虎さんだ。
思わず噴き出して睨まれる。
「なぁ、可愛い?」
「キモ……あぁ、はい」
「あれ?案外、不評?お前、着替えねぇの?」
「……ですね」
はしゃいでいる姫君と照れ臭そうな魔法使いと、どのポーズが可愛いかを模索する可愛くないトラネコを放って、俺も着替えることにする。
執事か……。今日は、この調子で1日、俊平に遊ばれるんだろうな。そう思うと馬鹿になるしかないという諦めの隅で沸々と滑稽な笑みが込み上げてくる。
なんだ……案外、俺も楽しんでいるんじゃないか。

「ねぇ、俺、可愛すぎない?」
「なぁ、俺、可愛すぎねぇ?」

自惚れの強い俊平と感覚のズレている虎さんは妙なところで気が合う。
二人で顔を見合わせたって、どっちも可笑しいだろよ。部屋の隅でチョロチョロしている艶夜さんの方が余程、可愛げがあって、どうも、マントの端を掴もうとして掴み切れないドン臭さが笑いを誘う。
「何をしているんです?手伝いましょうか」
「ぁ、うん……、さっき、そこで引っかけた気がして……」
「後ろ向いて……どこも破れていませんよ?」
「そう?良かった。神月は、この恰好どう思う?派手すぎるよね」
「似合ってますよ」
「お前みたいに着映えするといいんだけどね。……あ、プリンセスと目が合ってしまった」
声に促されて振り向くと俊平がドレスの裾を摘まんで見事な裾捌きで優雅に膝を折る。後で聞いた話では『カーテシー』というヨーロッパ伝統の女性の挨拶らしいが、まったく何でも身につけているヤツだと感心すらした。小首を傾げて愛くるしく笑って見せるのが男とは思えなくてドキリとする。気のせいか、いつもより柔らかな幼い表情に見えた。
「環は華やかだね。良家の子息はドレスの着こなしまで覚えるのかな?」
そんな艶夜さんの冗談に噴き出してしまうほど、確かに様になっている。
ドレスの裾を捲って中を覗いたりバサバサと揺さぶる悪戯なトラネコを品良くあしらう様は、さながら、中世の貴族の娘のように美しい。
やがて、トラネコにティアラを渡した姫君は此れ見よがしに口許を緩めると、スッと腰を屈めた。
「あれ?神月、獣に御株を奪われていいの?」
艶夜さんに茶化されて、
「いけませんね」
俺はトラネコの手からティアラを奪いに行った。



「何となく、違うんだよね」
甘すぎるのが嫌だと言って俊平が次にカメラマンに要求したのはシックなシルバーグレーにゴージャスな装飾を散りばめた着る者を選ぶドレスだった。シルエットの美しさがスレンダーな俊平に似合って……その、……透けた肌の艶めかしさが目の遣り場に困る。

「さっきとは、まるで別人だな……」
いつの間にか傍にいた虎さんが俺の耳元で「いい女」と笑う。
背筋を伸ばして斜にカメラを見る俊平は可憐だった印象をドレスごと脱ぎ変え、気高い様で口許に薄らと笑みを浮かべている。視線を落とせば愁い顔に目線を上げれば芯の強さを窺わせ、次の瞬間には匂いたつような蠱惑的な姿態で挑発的にカメラマンを見下ろしている。完全に撮られることを意識して表情を自在に操る様は俺を密かに驚かせた。
「朝也」
待機の姿勢を崩さないまま、凛とした声が此方も見ずに俺を呼ぶ。近づくと、
「手を貸せ。少し休みたい」
と、差し出した俺の手に、そっと手を添えた。
つくづく、人を使う事に慣れた人間だと思う。偉そうな口調はいつもの俊平なのに禍々しい属性に目覚めてしまいそうな魔性の香を身に纏っている。このまま何処かへ閉じ込めて直ぐにも犯したくなるような狂気を身の内に飼う……そんな嗜虐心をそそられる妄想を、まさか自分がするとは思わなかった。
「まいったな……。お前、わざとだろ」
セットに隠れて置かれていたパイプ椅子を一脚取ると、衝立の陰へ招き入れる。
「バレたか……」
俊平は妖艶に目を細めた。
「お前を従えるのは悪くない。こんな機会は滅多にないしね?……ほら、私を良く見て。椅子に座らせては下さらないの?」
湿り気を帯びた気取った女言葉も挑むように煽る嫣然とした笑みも、俺の狂気を駆り立てるには十分だった。自らの鎖骨を辿る白い指の行方を見守っていると、
「ねぇ、欲しくならない?」
と、僅かに伸び上がった俊平が舌先でチロリと俺の唇を舐める。
「あぁ……、優しくしてやれそうにないな」
俊平の喉を掌一杯に掴み、下顎骨かがいこつに触れた指で両側から力を籠めると、
「……ぁ、っ、……」
引き攣れた呼吸音を漏らして容易く開かせた唇の奥に無防備な舌が見えた。口を閉じることを許されないと理解った俊平が恍惚と俺を待つ間はキスなどしてやらない。
やがて吐く息よりも吸い込むことに集中し出した喉がヒューヒューと音をたて始める。解放を懇願する一際高い泣き声に肩を震わせた俊平が目も開いていられなくなると、俺はその瞼に接吻け、ゆっくりと舌を征服に掛かった。拘束を解いて、その腰を捕らえる。パッと目をみはった俊平の熱っぽいオニキスの瞳が潤み、ぐらりと理性を持っていかれそうな其の瞳を手で覆い隠した。たっぷりと甘やかすキスを仕掛けて、足元が覚束ない姫君を深く抱き留める。

「……ぅ、っん……ま、待っ……と、……」
だらりと垂れた両腕をなけなしの理性で俺の胸へと突っ張らせる。
その抵抗の無意味さなど、自分が一番、解っているだろうに……。

「……んっ……ん?んんんんっー!!」
突然、もがいて俺の胸を叩いた俊平は腕を逃れようと身を捩じらせ、この気丈な男には珍しく泣き出しそうな顔で俺を睨みつけた。
「……?」
「は、離れろ!」
「あ?」
あまりの慌てぶりに呆気にとられた俺に、衝立の向こうから虎さんの呑気な茶化し声が聞こえた。
「あーあ、あれは勃っちゃったな……」
マジか……。
「虎さん、そこにいたんですね?」
「どーも、すみませんね。可愛かったなぁ、アイツ……」
「様子、見てきます」
「お前、案外Sね。空気よめよ。艶夜が行った」
「……ですか」
「ですよ」

嗚呼、失態だ。機嫌、損ねたか……。



「艶夜、俊平……落ち着いたか?」
「うん、もう笑ってる。先に着替えたの?少し待ってて」
先輩たちの会話を耳にしながら、俺は少し離れた椅子で俊平が戻るのを待つことにした。

虎さんは角を付けたがって、けれど、艶夜さんは外したがって、胸のタトゥーも無い方がいいとか有った方がカッコイイとか、この二人は互いに遠慮が無いようで結局、最後には虎さんが折れてしまうのが意外だった。惚れた者の負けってことか……。
神父は天使の羽を持つが地上の役目に捉われて自由に飛ぶことが出来ない。そんな天使を見初めた悪魔は夜な夜な教会を訪ね、いつか、天に還るであろう天使の羽をむしり取る。
悪魔の狂愛に翻弄される堕天使、それが此のコスプレのコンセプトだと俊平は言っていた。

「虎先輩の強靭な体躯は男も見惚れるほどに美しい」
しゃあしゃあと俺を前に言った俊平の言葉が甦る。
「艶夜さんのストイックな顔立ちは、そう有れば有るほど淫らなんだ」
本人を前に言ってのけた俊平の言葉に絶句した艶夜さんの顔を思い出す。……成程。
「触っていい?」
それが艶夜さんの言葉だったことに少し驚いた。
ひたと虎さんの胸筋に手を触れて人差し指でへそまでツツッ……と辿りながら、
「また、鍛えたね」
と、感嘆の声を上げる。彼に俊平のようなあざとさが有るとは思えないが、無意識に虎さんを煽っていることに、まるで本人は気付いていないんだ。
「それはそれで、罪深い天使サマだな……」
撮影の間、俊平は戻って来なかった。
「肩に寄り掛かってみ」
と、虎さんが艶夜さんの頭をそっと抱き寄せ、零れる髪を整える。その仕草が余りに優しくて、本当に大事で大事で堪らないのだと口許が緩んだ。
「朝也、そこでニヤニヤしてんじゃねーよ。見るな、バァーカ」
「してませんよ」
「虎、口が悪い。神月、ごめんね。でも……恥ずかしいから席を外してくれないか?」
「わかりました。俺も次の支度をしてきます。あれの機嫌も見て来ないと……」
カメラマンのシャッター音を合図に俺はそっと表へ出た。


「その、さっきは……」
「謝るな。俺は朝也が謝るところなんか見たくない」
「いや……」

「自業自得だと思うんだが……?」

「What did ya say?」
背後から肩を掴んでくる手にギリッと力が入る。気色ばんで声を低めても俊平が怒っていない事は鎖骨から肩峰を探る指の動きで判る。甘えたい時の癖だ……。
「煽ったのは、お前だ。爪を立てるな」
「ねちっこいんだよ……」
「勃つとは思わなかった」
「お前が焦らしたから」
「焦らされるの好きだろ?」
バシッと音の立つほど上から両肩を叩かれた。何て可愛いヤツ……。
そっと目隠しをされて、
「本当のこと言えよ」
背中に温かい重みがのしかかる。
「……欲情したろ?」
男を忘れそうに滑らかな指が、こめかみから頬を喉へと撫で回していく。蜜事を囁くように、ねっとりと凄艶な声音が薄ら笑いを浮かべて言った。
「さっき、控室で鏡を見てわかったんだよ。俺、すっげー綺麗だなって……」
この男の、こういうところが俺は堪らなく可愛い……。

俊平から砂糖入りの紅茶のような香りがする。
「香水?」
「誰のせいだと思ってんだよ」
はは……、ヌいてきたのか。
エチケットを怠らない繊細さが俊平らしい。瞬きする間にも姿を消してしまいそうな、いつものミステリアスな香りより、貪欲な「性」を感じるウッディな香りがセクシーだ。
「背伸びしたな?」
そう笑った俺に、惹かれてやまない雄弁な瞳が一層、大きく輝いた。
「あぁ。……もっと、俺を欲しがれ」


「はぁ~。何をやっても、お前は汚れない」
海賊にしては身綺麗すぎると俊平に溜息をつかれ、言われるが侭に着替えたが、何とも理不尽な言われようだ。デザインが派手とか似合っていないなら分かるが、
「その綺麗な目を隠せ。顔が端正すぎるんだよ、そんな海賊いるか!」
なんて臆面もなく小っ恥ずかしいことを喚くから、虎さんは「うるせぇよ」と逃げ出すし、艶夜さんは「腹が捩れる」と笑ってばかりいる。結局、渋みのある色に落ち着いて俺も悪くないなとホッとした。王子に真っ赤な花飾りという俊平のセンスには度肝を抜かれたが、この男はつくづく魅せ方を心得ていて匂いたつ色香を悠然と纏っている。

「これにも、コンセプトがあるのか?」
真っ赤なソファに斜に掛ける俊平は俺の態度を偉そうだと笑うが、行儀悪く股を開いて寛いでいてもコイツがノーブルさを失わないのは、隠しきれない出自の良さというものだろう。
「周辺国を荒らす海賊の頭領を捕縛した英明なプリンスが凱旋するんだ」
いきなり、ちょっと待てと異を唱えなくなるシチュエーションだったが、俺は無言でいることで続きを促した。俊平の表情が翳ったのが気になったからだ。物語の展開がと言うより何か自身に思うところが有るように直感したからだ……。
「武功を讃えられた王子のパレードに民衆は沸き立つけれど、彼は浮かない顔をしている」
「何故だ」
「……出逢いを間違えたから、かな?愛してしまったんだよ、牢に繋がれた海賊を……」
窓から差し込む西日にうら寂しい声を溶かした俊平は物語に想いを馳せて遠くを見つめている。
「その海賊は自分の意志で逃げようとしなかったんだな」
俺は疑いもなく、そう言い切った。それが、俊平が欲している答えに思えたからだ。
「王子も逃がそうとしなかった」
すぐに、俊平の意志の強い声が続く。
「方途を見出すため?」
「そんな立派なものじゃないよ。エゴだ。ただ、手放したくなかったんだ」
「海賊は処刑されるとしたら?」
「……それでも、……うん、どうしただろうね……?」
俊平は片膝を抱えて顔を埋めてしまったが、その問いかけには、きっと既に答えが用意されていた。
恐らく王子は海賊を手放せなかったのだろう……。いつだったか、俊平が激しい感情を俺にぶつけてきたことがある。
『他のヤツに笑いかけるお前なんか、見たくねぇんだよ!』
横暴にも聞こえる独占欲だったが俺は嬉しかった。何故か、その時の声が王子と重なって、海賊は死を本望と受け入れただろうと柄にもなく感傷的な気分になる。
「海賊も王子を愛した」
ふと、ぽつりと口に出た。
「……そう思う?」
「違うのか?」
「答えが見つからない」
俊平が時折見せる自嘲含みの笑み……。こんなふうにしか笑わせてやれないのは俺に何が足りないのかと胸が苦しくなる。この物語は俊平が自身に問いかけた俺たちの物語なのかもしれない。虎さんたちの『悪魔が愛した堕天使』と、俺たちの『海賊を愛した王子』の物語。
罪……。
それが、俊平が考えた二つのシナリオの共通テーマだったのだと今になって気が付いた。
許されざる愛、禁忌の愛……、俊平は俺との関係をそんなふうに思っているのだろうか?
「なぁ、俊平。王子は海賊の処刑を見届けたと思うか……?」
何となく聞いてみたくなって、俺は俊平の肩を抱き寄せた。
「ねぇ、朝也。男が肩を抱く心理って独占欲の現れだって知ってた?」
「は?」
「ううん。そうだなぁ……?見届けたと思うよ」
「そうか」
「……うん」
その胸に何を思うのかは判らないが、俺の肩に顔を埋めた俊平は其の感受性の強さが創り出した自分の世界で、こうも深く傷ついてしまう。
「ねぇ、朝也。海賊は王子を恨んで死んだと思う?」
「いいや?思わない」
「どうして?」
「至高の宝を手に入れたからだ」
救い……いや、希望か。王子に愛された海賊は其の尊い感情を身の裡に知る。恐らく歓喜の瞬間だっただろう。小首を傾げて真剣な面持ちで考え込んでいる俊平をグイと膝の上に引き倒すと、不意をつかれて容易く態勢を崩した俊平が目を丸くして俺を見上げてくる。
「び、びっくりした……」
「なぁ、俊平。刑の執行を前に、かの王子は海賊に一言も無いのか?」
「へ?」
「最高に、お前らしいハッピーエンドを用意してみないか?お前が王子なら海賊をどう口説く?」
パッと目を見開いた俊平は其のクルクルと良く表情を変える大きな瞳を爛々と輝かせ、俺の首に噛り付いてきた。勢いが過ぎたか弾みでスプリングの効いたソファが軋み、抱き留めた腰の細さに喉が鳴る。カメラマンがいなけりゃ、速攻、押し倒してキスをしていただろう。こんな時に俺は自分の理性の強さを恨めしく思う……。

「I allow for you to love me through the life.」

私は生涯、貴方が私を愛することを許します。……だと?
つまり、俺に一生をかけて俊平を愛することを許すと言うのか。
何てコイツらしい照れ隠しかと、堪り兼ねてキスをした。
「もっと、素直に言えないのか?」
と、耳打ちすれば、微かに体温を上げてクスッと笑み零れる。

「You take my breath away.」

息も出来ないくらい、朝也が好きだよ。……と。
今夜、この熱烈な口説き文句にどう応えてやろうかと、俺は、ほくそ笑む……。



「Happy Halloween♪Cheers!」

ゴキゲンな俊平の掛け声で始まったのは場所を移してのハロウィンパーティーで、料理の殆どを俺と虎さんとで作った。俺はパエリアやカナッペ、カプレーゼなどカクテルと相性のいい軽く摘まめるものが中心、虎さんは和食が得意で腹に溜まる竜田揚げや煮炊きものを手際よくテーブルに並べていく。
もっぱら、皿の出し入れは艶夜さんが一人で奮闘していたが、俊平はキッチンの隅で床に足を延ばして座り込んだまま動かなかった。
「俊平」
と、声を掛けても、まったく聞いちゃいない。そんな俊平を甘やかす艶夜さんは「シッー」と声もなく俺を制止し、首を横に振って、ただ笑って居る。
「アイツ、いつも、あんな調子か?」
気の短い虎さんさえ何も言わないのは、俊平が夢中で鉛筆を走らせていたからだ。
10分に一度はページを捲っているんじゃないかというスピードで、ずっと、スケッチブックに噛りつき、俺たちを描いていた。
「環は本当に画家さんなんだね」
という艶夜さんの感嘆の声は茶化した訳じゃなくド天然に大真面目な発言なのだが、俊平には伝わらなかったらしい。口を尖らせて、
「だったら、次の個展、見に来てよ。招待する」
と、挑発的に言った。
「ついでにペアチケにしろよ」
という虎さんの調子のいい言葉に「いいよ」と俊平は笑う。
時々、俺は虎さんを緩衝材かんしょうざいのような男だと思うことがある……。


「これ、旨い」
俊平が喜んだのは虎さんが作ったカボチャのコロッケだった。普段、サツマイモのレモン煮は白飯に合わないと文句を言うヤツが、どうしてカボチャのコロッケだと旨いのかが解らない。
「お前、甘い味と米は合わないと言わなかったか?」
「……言ったっけ?」
はっ……、この程度の味覚だ。
「揚げりゃ、大抵のものは食える」
見かけの割に繊細な料理をする虎さんがやっぱり見かけ通りの大雑把な回答をして、それが頷ける回答だったから俺は笑ってしまった。

皆、酒が入っているから饒舌で、その夜は遅くまでコスプレパーティーに興じた。
きっと素面だったら、シャイな艶夜さんは真っ先に「仮装は終わりだ」と脱いでしまっただろう。
「俺、2人の撮影、見たかったな……」
俊平が艶夜さんの神父姿が似合うと言って、鏡の前で背後から羽交い絞めにチョッカイを出している。来年は自分が悪魔をするから一緒に撮って貰おうなんて言って、艶夜さんの溜息がキッチンにまで届いて来そうだった。虎さんはカウンターに片肘ついてグラスを傾けながら、そんな二人を穏やかに見守っている。
「そういえば、俊平。あの時、全然、戻って来なかったけど、どこにいた?」
俊平の緊急事態を真隣りで覗いていたくせに、虎さんは意地の悪い顔で揶揄っている。
「俺もゴメンね。虎に環が気分が悪そうだから見てこいって言われたのに撮影に呼ばれて、一人で置いてっちゃって。ドレスの締め付けが苦しかったんだろ?着替えるのに一人じゃ、大変だったよね。気が利かなくて本当にごめん……」
「あ……、えっーと、大丈夫です」
動揺している俊平と目が合うと怖い形相で睨まれた。それに気づいた虎さんがトドメを刺す。
「そういえば、俊平。お前、あのドレスってパンツ履いてた?太腿のキワドイところまで足が透けてドキッとしたっつーの。胸もねぇのに結構キたわ。なぁ、朝也?」
「え、ぁ……はい」
俺も多少は気になっていたんだが、この人は遠慮がないというか無神経というか……まったく、どんな顔をしていいか判らずに俊平の様子を窺うと……窺うと……?
この日、一番、大きく見開かれた俊平の眼を見て、まさか……と、空気が凍り付く。
「は、履いていたよ?一応。ノーパンだったら俺だって持つモノ持ってるからね?ちょっと、工夫がさ……。そこ、聞く?」
「聞く」
すかさず言った虎さんに、流石の俊平もたじろいた。
「俺、アンタのそーゆーとこ、軽蔑する♡」
「だよなー?あははははっ」
「でも、楽しかったよね。違う自分になれるっていうかさ」
「お、流石、艶夜、いいこと言う!」
「もう、虎、飲みすぎだから……これ以上、セクハラ発言したら外に出すからね?」
「朝也、いつか俺に純白のドレス着せてよ!そしたら今日のこと帳消しにしてもいーよ?」
「は?」
「朝也のスケベ、あはははっ、お前も好きだねぇ」
「虎、何、言ってんの?神月、ごめんね」
「いーのいーの、艶夜さん。俺が悩殺しちゃったの。朝也、俺にもカクテル作って♡とびっきり、スウィートなやつ♡」
「お前、いつも先に寝ちまうくせに……」
「何?寝かしてやればいーじゃん。朝也、お前この後、俊平に何しようっての?」
「また、虎は、そういうことを言う!」


夜も更けて……。
まだまだ、パーティーは終わる気配もない……。

あー……疲れた。
明日も晴れるかな……?

Have a happy Halloween!

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